後天性血友病について

監修:小川 孔幸 先生(群馬大学医学部附属病院. 血液内科)

出⾎傾向の既往や家族歴がないにもかかわらず、⽪下出⾎や筋⾁内出⾎などの出⾎症状が突然出現する国の指定難病です 1,2)
小川 孔幸 先生

後天性血友病は年間100万⼈に対して1.5人 3)の発症率と報告されている非常にまれな疾患です。
生まれつき出血しやすい体質ではなかった個人において、血液凝固第VIII因子に対する自己抗体(インヒビター*)が出現するために、出血症状をきたします 4)
ぶつけた覚えがないのにあざがある場合、血尿が見られる場合などは受診が必要かもしれません。

小川 孔幸 先生

下の写真は後天性血友病患者さんのあざの写真ですが、個人により状況は異なり、これより大きい場合、小さい場合が考えられます。

  • *「インヒビター」は英語で「抑制するもの」、「妨げるもの」という意味です。

私たちのからだは、出血すると血を固まらせる仕組みが働くようになっています。

インヒビターがない場合
インヒビターがある場合

インヒビターがない場合

インヒビターがある場合

後天性血友病の原因 5)

後天性血友病の原因は不明ですが、次のような背景を持つ方に発症することが報告されています。
一方で、以下の背景が無くても発症することがあります。

  • ● 関節リウマチなどの自己免疫性疾患
  • ● 天疱瘡などの皮膚疾患
  • ● 分娩後
  • ● 癌(手術後を含む)
  • ● 白血病
  • ● 薬剤投与後(抗生物質など)

年齢的には、高齢者の方と若年期(主に産婦)に多くみられる傾向があります。

後天性血友病A患者における基礎疾患

・目的・方法
日本国内における後天性凝固因子インヒビター患者の実態を把握するために3年間のアンケート調査を行った。

・対象
国内42施設における後天性血友病A患者55例

  • 田中一郎ほか 血栓止血誌19(1):140-153,2008

後天性血友病の主な症状 5)

後天性血友病の主な症状

「出血」が主な症状です。

  • 強い衝撃(打撲等)を受けた記憶がないのに広範囲にあざができている。
  • 血尿が出る。

といった症状から、

  • 手や足が筋肉や関節の出血で痛みが出たり、腫れている。
  • 喉の周囲の出血により呼吸がしにくい。
  • 歯をみがいていて血が出やすい、止まりにくい。

などさまざまです。

先天性血友病との違い 5)

先天性血友病との違い

後天性血友病の患者さんご自身、ご両親、ご兄弟、お子さんの第VIII因子の遺伝子は正常なため、遺伝はしません。

男性、女性いずれでも発症します。

治療が奏効した場合は、しばらくの間、検査や薬剤の投与を行うことで治療は終了します。

後天性血友病の検査 5)

後天性血友病の検査

出血の症状により、血液検査を行います。
一般的な血液検査(赤血球、血小板、白血球数など)に加えて、

  • 血の固まりやすさを調べる検査(APTTなど)
  • 第VIII因子の働きを抑制しているインヒビターの量* の測定

などの血液検査を行います。
これらの検査により、診断の確定や、重症度などがわかり、治療法を決めることができます。

*「ベセスダ」という単位であらわします。

後天性血友病の治療 5)

多くの場合、入院して治療を行います。
大きく次の2つの目的で治療を行います。

後天性血友病の治療1
出血症状の改善
後天性血友病の治療2
原因であるインヒビターの除去
後天性血友病の治療1
出血症状の改善

出血症状の改善は最も重要なことです。
ヒトの血液中にある凝固因子(血を固めるために必要な物質)から止血目的で作られた製剤、また遺伝子工学的に作られた同様の目的の製剤があり、静脈内に注射または点滴で投与します。
1日に何回、何日間投与するかなどは患者さんの状態をみて、医師が判断します。

バイパス製剤:別の凝固ルートを経由して血を固めます。別ルートで止血することから「バイパス製剤」と呼ばれます
後天性血友病の治療2
原因であるインヒビターの除去

ステロイド製剤、免疫抑制剤等が、症状に応じて、内服、注射または点滴で用いられます。
血漿交換療法といって、体内の血液に含まれるインヒビターを取り除くために、血液の液体部分である血漿を数時間かけて入れ替える方法がとられることもあります。

退院後は、

  • しばらくの間は定期的に来院して検査を実施すること。
  • 出血症状を含めて何か異常があったらすぐに来院すること。

が重要です。

後天性血友病の再発について 5)

まれに再発の報告があります。

したがって、出血症状を含めて何かの異常があったらすぐに病院に行くこと、その際には、後天性血友病にかかったことがあることを医師に伝えることが重要です。より適切な診断、治療が可能となります。また、医師から定期的に通院が必要と言われている場合は来院日に受診するようにしましょう。

文献:
  • 1)田中一郎ら. 血栓止血誌 2008; 19(1): 140-153.
  • 2)難病情報センター (https://www.nanbyou.or.jp/entry/4649)(2023年11月アクセス)
  • 3)Collins P, et al: BMC Res Notes 2010; 3: 161-168.
  • 4)朝倉英策. 日内会誌 2017; 106(9): 2010-2017.
  • 5)武田社内資材「後天性血友病とは」松下正